【科学者と技術者の誕生】

今村遼平

「科学者」 は太古の昔からいたと思っている人が多いのではないか.そんな昔でなくても近代科学は17世紀以降に成立したのだから,ガリレオやニュートンの時代には既にいたと思われようが,実はそうではない.ガリレオもニュートンも「哲学者(自然哲学者)」  と呼ばれた.そのころにはまだ「科学者(scientist)」という言葉自体はなく,専門的な科学者はいなかったのである.

“scientist”なる言葉がつくられたのは1836年ころのことだから,まだ180年ほど前のことにすぎない.この言葉は,ラテン語の「scientia(知識)」からきているようだが,1836年ころイギリスの自然哲学者ヒューエル(1794-1866)が初めて科学を専門に研究する人のことを「scientist (専門科学者)」と呼んだのが始まりだとされる.当時,ようやく科学の研究を専門的な職業とする人が増えて来たということだ.

この言葉が幕末~明治の哲学者・西周(にしあまね)(1829-1897)によって「哲学」や「文学」などと同様に,「科学」と訳された.ただ,「科学」という言葉自体は,12世紀中国の南宋時代の陳(ちん)亮(りょう)(1143-1194)が使った「科挙之学」という中国語からの借用で,医学・天文学・動物学・植物学・鉱物学・地質学・薬学・・・・etc.いろいろな分野に分かれている「個別の学問」-それぞれの分科(・・)-を総合する学問をまとめて「これらに共通して流れる認識形態」という概念からつくられたようである.

「科学者」が一つの専門的な職業と認められてくると,その専門集団によって専門学会がつくられ,専門的な学術出版物が刊行され,産業革命の進展にともなって科学者は工場の顧問的な存在や技術者を養成する教師役として社会に定着してきた.「科学」も社会の生 産活動と結びつくことによって,社会生活の具体的な役割を担うことになり,次第に制度化されていったのである.大学は12世紀からあったにもかかわらず,17,18世紀の科学者で大学の教授として古い制度の中に位置づけられた人はほとんどなかったのが,産業革命によって科学研究が社会の制度として認められると,科学者がその制度の中に組み込まれるようになったのである.

一方,「技術者(engineer)」の方は科学者よりも少し古く,ルネサンス期に生まれたようだ.当時,レオナルド・ダ・ビンチやミケランジェロなど(いずれも貴族に仕えて軍事や土木事業などに携わっていた),多くの天才的な人々が創意工夫して,さまざまな装置や機械などを創造・開発した.そういう人たちを「天才を与えられし者(en genius)-創意工夫して,文化・文明を創造する人-」と呼んだそうで,それが転じて「技術者(engineer)」と呼ばれるようになったらしい.ということは,私たちの「技術者」という言葉は,きわめて誇り高い呼称だということになるのではあるまいか?

 

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