【偶然は準備のできている人には,必然としてとどまる】

今村遼平

2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹先生の助手が,先生にポリアセチレンの実験で1ミリモルの触媒を入れるように指示されたのを,誤って l000倍の1モルの量を入れてしまった.もちろん,こうしてできた銀色のフィルムは失敗作だが,白川先生は捨てないでそれを使っていろいろな実験をし,結果的に電気を通すプラスチックを開発したことは周知のとおりである.このあと,ペンシルバニア大学のマグダイアミッド教授からの要請で共同研究を続けて,のちに「導電性ポリマー」の開発でともにノーベル賞の受賞に至るのだが,そもそもの発端は失敗作を捨てないで調べてみたことにある.

レントゲン(1845-1923)がX線を発見したのも劇的だ.彼はクルックス (1832-1919) が見つけレナート(1862-1947)が発展させていた陰極(・・)線(・)の諸現象をテーマに,今日でいう「ガイスラー管抜気実験」をしていると,電源を入れて陰極線を光らせたとき,管から離れたところに置いた蛍光発光板(白金シアン化バリウムを塗ったもの)が同時に光りはじめた.その源は陽極(・・)から出ており,陽極全部を遮光用のラシャ紙で覆っても蛍光板を光らせる.レントゲンはいろいろな物質でその光を遮へいしてみたが,多くのものを透過してしまう.ただ,鉛だけは厚さ1.5〔㎜〕でも完全な遮へい効果があることがわかった.  レントゲンはこの未知なる光を「Ⅹ線」と命名した.

先輩格の物理学者クルックスもレントゲンより前に同じ実験をしていて,そばに置いた感光板が露光しているのを知り,欠陥商品としてメーカーに返品していた.この差は一体何か? レントゲンはX線の発見で第1回のノーベル物理学賞を受賞している.

このように偶然が作用して重要な発明・発見をした人は数多くいる. フレミングによるペニシリンの発見をはじめ,硬質ゴムを発明したグッドイヤー,ポアンカレーの「フックス関数」の発見,ケクレルの 「ベンゼン環(核)」のアイディアなど,枚挙にいとまがない.

このような「偶然や偶然のひらめきを幸運に変える力」を,イギリスの作家ホレス・ウォルポールは童話『セレンディップ(セイロン)の三人の王子の冒険』にちなんで《セレンディピティー》と名づけた.しかし,このような幸運は誰にでも簡単に訪れるわけではない.生理学者へルムホルツ(1821-1894)はこのようなセレンディピティーの到来を,次の三つのステップに分けている.

(1)もはや先に進めなくなるまで続行される最初の執拗な探求

(2)(1)のことをしばらく忘れての休息と回復の期間

(3)予測しなかった解決法の偶然の到来

細菌学者ルイ・パスツール(1822-1895)はこのことを「偶然は準備のできている人には必然としてとどまる」と述べている.いつも考えていない人に,このような幸運が訪れるわけはないのだ.


 

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